平成10年10月24日(土) 産経新聞(夕刊 )

追い出し
心地よい大阪声のエエ男

八、九日の立川流落語会「談坊」改め立川文都真打昇進襲名披露興行」日暮里サニーホール)。五、六の国立演芸場で賑々しい場を終え、新・文都がなじみ客の前で連日トリを務めた。

 大阪に生まれながら立川談志の芸と、芸に取り組む姿勢にほれこみ入門。過酷なことで有名な立川流で前座四年、二ツ目を十年務め三十八歳で襲名昇進だ。
「文都」の名称は亭号を変えながら受け継がれ、六代目になる。

 八日の「はてな茶碗(ちゃわん)」では、茶屋の主と喧嘩(けんか)してまでして買った茶碗でひともうけしようと、担ぎ商いの油屋が活躍する。この油屋、売ってくれなさそうだと見るや「おまえにももうけさしてやらん。割ってしもたんねん」と目の前でお手玉。悪いやつではないがずるい。でも間抜け、という落語で最も面白いキャラクターを、響く声と大きなしぐさで演じ切る。この手の大げさで屈託がない上方の町人を演じたときに、一気にさく裂するのだ。国立の「小言幸兵衛」ではちょっと動きすぎ?と思うほど幸兵衛さんがエキサイトしていたし。

 活動範囲は主に東京圏。立川流でなぜ上方落語?という疑問には「ニセモノ、上方風落語です」と開き直る。ごこが上方風か。

 まず何より声がでかいことだ。これは「引きの芸」を美とする東京落語と一線を画ず重要なポイント。地声を響かせ押しまくり、客席をそらさない。そして、男前である。男前がアホを演じるから絵になる。細身で肩幅が広く、形良く整えた髪に黒目勝ちの目で大阪の「ぼんぼん」的容ぼうが実に上方風。大阪はエエカッコしいを嫌うはずが、囃家は多いシュッとした華のある人が好かれる。

 しかし何と言っても、ノドの奥から絞り出すような「大阪声」でごじゃごじゃいらんことをしゃべりまくる。これが留めだろう。期せずしてにじみ出るオカシミ、これぞ大阪の血のなせる技、上方風味のオイシイところだ。東京で上方落語を見たくなったらこれ!とオススメしたい人になってきた。


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